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夜も更けた頃、自宅のマンションを出ると自転車に跨がった拓也が待っていた。 「彩斗おせぇよ。見てここ!蚊に喰われまくってる!」 拓也はおどけながら腕についた赤い印を見せ付けてくる。 「うわー痒そう。バッテン付けちゃお。とりゃっ、とりゃっ」 彩斗は拓也の腕の虫刺されに、爪で×印を付けていく。 「ちょ、やめろって!」 「ははは、こっちにも付けてやろう」 「ったく、いいから早く乗れよ!」 自転車に二人乗りで、弛い坂道を登っていく。 「彩斗、夏休みの予定は?」 「んー……美術部の活動、みんなで写生したり。あとは中学の友達と東京に個展を見に行ったり、小学校の同級生たちとキャンプ……みたいな」 「……ふーん……」 彩斗は高校の教室では何故か親しい友人が出来なかったが、そこ以外では友人はいるのだ。 拓也はそれをどこか不満げに聞いていた。 「てか拓也さ、今日の放課後あんなに慌てて帰ってどうした?皆ガッカリしてたけど……」 「ああ、今夜お前と出掛けたかったから、道具出したり部屋を方付けたりしてた」 拓也がいそいそと準備をする姿を想像して思わず笑ってしまう。 「ふはっ、楽しみすぎかよっ」 「はははっそうだよっ」 他愛もない会話をしながら、自転車は進んでいく。 はっはっ、とペダルに合わせて吐く拓也の息、 昨年より逞しくなった後ろ姿、 彼の肩に添えた手から伝わる熱さと、 Tシャツ越しに感じる汗、 熱帯夜に自転車に二人乗り、 クラスの皆には内緒の逢瀬。 ……まるで恋人みたいだ。 ふとそんなことを考えて彩斗は自嘲した。

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