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行為が終わって冷静になった拓也は、自分のしてしまった事に震えていた。
しかし、彩斗が離れていってしまうことの方がもっと怖くて、手の拘束をほどけずにいた。
「拓也、いい加減、腕ほどいてよ」
「……嫌だ。このまま帰したら、二度と会ってくれないだろ」
「このままじゃ何もできない」
「彩斗は何もしなくていい。ずっとここにいて、俺の物でいてよ……」
「……このままじゃ、レイプ野郎のお前を殴ることも……だ、抱き合うこともできないし……」
「…………え?」
「それに、まだキスもしてもらってない……」
「…………は?」
「もう、キスしてくれないの?…………たくちゃん」
拓也は弾かれるように彩斗の拘束を解き身体を起こしてやり力一杯抱き締めて貪るように唇を奪った。
「は、む……んっ…………ぷはっ!」
驚いてぱちぱちとさせるその目は、昔と何も変わっていなかった。
夏休みが終わって初めての登校日。
拓也は友人たちから批難を受けていた。
友人との約束を全て無視し、連絡すら断って好きなだけ彩斗と過ごしていたからだ。
口々に言われる文句に、ごめんごめんと空返事をしていると、彩斗が教室に入ってきた。
「あ、彩斗!おはよう!」
拓也は人垣を掻き分けて彩斗に駆け寄る。
「拓也、おはよ」
「こないだのオオクワガタ、乾燥済んだからもう塗れるぜ」
「本当!?楽しみだなぁー」
え?どういう事?
夏休み中何があったの?
キャラちがくない?
皆がヒソヒソとする中、どこからか一羽のカラスアゲハが迷いこんできて、彩斗の後ろの壁にとまった。
バンッ!!と壁を叩く大きな音がして、教室中のヒソヒソ声がピタリと止まる。
蝶が居たそこには、拓也の大きな掌が叩き付けられていた。
「……拓也?」
腕の中の彩斗が伺うように見上げると、拓也はにっこりと頷いて窓側へ行き、掌を広げる。
ふわり、と拓也の手の中から蝶が飛び立ち、残暑の空へと消えていった。
拓也はそれを満足そうに見送った。
終
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