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第一夜

 自分の不器用さに気づいたのは、いつの頃だっただろう。  中学1年の夏、交通事故で母と弟が死んだ。  葬式は義理の父の故郷の田舎で行われた。  顔も知らない親戚が僕よりも悲しそうに参列していたのを覚えてる。  すすり泣く声は降り注ぐような蝉時雨にかき消されてしまうような、とても暑い日。  それから、葬列の途中に見た、真っ青な、どこまでも無限に広がるような空。  大きな入道雲が、青いキャンバスに絵画のような陰影を抱いて描かれていた。いや、でも絵よりも作り物めいた雲だったかも。  すっかり肩を落とした父の背中を見ながら、自然って悪くないな、とのんきなことを考えていた気がする。  だってあまりにも現実味が無かった。  残されたのは、血の繋がらない父と、僕だけだった。父は僕が嫌いだったし、僕も父を好きじゃなかったから、後のことを考えるだけで気が重くなる。  その日も、両親と弟が海に向かう途中の事故だったと聞いている。僕はのけ者で留守番だった。塾だって休みだったのに。    だから、全てをやめることにした。  あの日のことは、よく覚えている。  すべてが終わった後の、すごく暑い日だった。  皮膚を焼き焦がす強烈な日差し。  冷たい川の水。  ゆれる視界。  山の木々の深緑。  沈んでいく体。  もうどうにでもなってしまえと、水中に投げ出した“僕”自身。 『君! 大丈夫か⁉』  肌に纏わりつくYシャツと、透けた肌。  そして、健康的で逞しい体躯。  ざあざあと唸るような水の流れの中。  息が出来なくなって、意識が反転する直前。  僕は、その大きく骨ばった手をとったのだ。

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