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第???夜
自分の異常さに気づいたのは、お前に出会って間もなくの頃だった。
気色悪い風が冴えるようになって、不気味な光を放つ虫の減った、夏の夜。
丸いレトロな金魚鉢の中で、ヒレの長い赤と黒の金魚が、二匹、泳いでいる。祭りで余った分を押し付けられたものだ。
二人で煎餅布団にごろりと転がって、二匹が優雅に泳ぐ様子を眺めていた。
行き場を失った邪魔者。
まるで俺たちのようだと思った。
「今年も、父さん、来なかったなあ」
「もう来ないんじゃないか」
だって死んでるんだから。
「そう、なのかな」
「ああ。まあ、いいじゃないか、別に」
あんな男がどうなったって。
視線を感じてそちらを見ると、琉がもの言いたげに俺を見ていた。
「……そんなに見るなよ、照れるから」
ごまかして、襲い掛かるふりをする。琉はくすくす笑った。それだけで、俺はもう何もいらない。
お前は何も知らなくていい。
よくお前に薬を盛ったこと。
お前の家族の死のこと。
俺が犯し重ねた罪のこと。
誰が死んでいて誰が生きていて――誰が、何が狂っているのか。
なあ琉。
お前は初めて会った日のことを覚えているだろうか。
覚えていない方がいいんだけど、お前は勘が鋭いから。
俺が俺の両親を、殺した日のこと。
この作られた安穏の中で、二人、互いに溺れて生きていく。
罪を背負った夏の夜、俺に笑いかけたお前は、あの日あの瞬間から、俺だけの金魚。
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