1 / 259
第一章「代償」
今年もこの季節がやってきた。
液晶テレビの画面に映し出されている薄暗い背景。若者達のダミがかった笑い声。激しく揺れている映像は音声よりもぼんやりとした輪郭で、まさに素人感が出ていた。僕はその映像を細部に至るまで凝視していく。
『お分かり頂けただろうか?』
おどろおどろしい男性の声と共に場面が暗転し、僕はソファに凭れかかり首を傾げる。
不気味な背景と共に映し出された「replay」という字に、僕はもう一度体を前のめりにする。
先程と同じ映像が流れ、今度は分かりやすいように画面が停止すると、その箇所を示すように寄っていく。
「うわああああっ!!」
僕は思わず叫び声を上げると、ソファに仰け反り返った。確かにあるはずのない場所に、ハッキリと女の恨めしそうな顔が写しだされていたのだ。
「朔矢!! あんたうるさい!! そんなのばっか見てるせいで、棚が勝手に開くのよ!!」
キッチンで食器を洗っている母親の怒声に、僕は母さんより怖い存在はいないからと心の中で悪態を吐く。それに棚が開くのはきっと、ネジが緩んでいるせいだろう。
ともだちにシェアしよう!