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「代償」11

 契約自体は彼の父親がするそうで別段問題はないが、部屋選びにかなりの労力を費やす事となった。『告知義務あり』や『心理的瑕疵物件』と記載されていなくとも、進める物件を一軒一軒の確認も怠らない。少しチャラチャラとした見た目とは裏腹に、かなり細かく突っ込んで聞いてくる。  内見の際、建物を見るやいなや「次お願いします」と言って車に戻ってしまう事もあった。神社の息子だからそういうのに敏感なのかもしれないと、泰明の父親はとにかく根気よく対応したそうだ。泰明と同じで嫌な顔ひとつせず、真摯な対応をしたことは話を聞いていてよく分かった。  何日もかけて何十件も回った後、とある新築アパートの室内を見て回った彼はホッとしたような表情で「ここにします」と漏らした。その表情にこのときばかりは、泰明の父親も肩の荷が下りたように思えたらしい。  普段は客の話をしない父親にしては珍しいが、家族に話したくなるのも無理はないと泰明もさすがに同情したようだった。 「俺も何度か顔を合わせてて、会話もしたこともある。神近がこの学校に入学してから校舎でも会ったことが、あるにはあるんだが……」  そこで口を噤むと、考え込むように顎に手を当てる。その様子に泰明でも手に負えないような人物なのかと、僕は驚いた。

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