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「代償」29

「神近くんも帰ろうよ。今日は寒いからさ」  僕は鳥肌の立っている腕を擦って訴えかける。神近くんの顔色も、心なしかさっきより酷くなっている気がしてならない。体調が悪いのだから、早く帰ったほうが良いのは確かだ。 「さっきも言いましたよね? 僕はまだ残りますので、先輩一人で早く帰ってください」 「そんな事言われたって、帰れるわけないじゃん。具合悪い後輩残すわけにいかないから」  僕は言うなり神近くんの腕を掴む。やっぱり熱があるようで、掴んだ腕から伝わる体温がやたらと高い。 「大丈夫ですから……それに、俺といるところを鐘島先輩に見られたらやばいんじゃないんですか?」 「そんなの構わないよ。送っていくから立って、ほら」  僕は少し声を強めて、神近くんを促す。もっと反抗してくるかと思いきや、素直に神近くんは立ち上がる。 「お節介な人ですね」  少し青ざめた顔で、神近くんがポツリと零す。 「やっぱり顔色が悪いよ。減らず口を叩けるうちに帰ろう」  僕は神近くんの腕を引くと鞄を肩に引っ掛け、部屋を出ようと扉を開ける。何だかんだ強がりを言ってしまったが、泰明に見つからないか僕は内心ハラハラしていたのだ。

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