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「代償」30

 まるで忍者のように左右を警戒しつつ、僕達は何とか下駄箱までたどりつく。  安堵の溜息を漏らしつつ、僕は靴に履き替える。あとは校門を出るだけだ。  僕は傘を開いて校舎から出ようとすると、神近くんは顔を顰めて空を見上げるばかりで動こうとしない。 「もしかして、傘ないの?」  僕は驚いて目を見開くと「えぇ、まぁ」と神近くんは言葉を濁す。朝から雨が降っていたにも関わらず、傘を持っていないのは不思議だった。 「嫌かもしれないけど入りなよ。神近くんの家まで送って行くから」 「結構です。恥ずかしくないんですか? 男同士で相合傘だなんて」 「僕は別に構わない。体調悪いのに濡れて帰ったら悪化するよ。一緒に入るのが嫌なら僕が濡れて帰る」 僕はそう言って傘を、神近くんの手に無理やり握らせる。 「分かりました。でも駅までで結構です」  神近くんは諦めたように溜息を零す。僕はホッとして傘を持つ神近くんの隣に並んで入る。  既に校庭には人の姿もなく、僕達を揶揄出来そうな人間は誰もいない。  たとえ何を言われようと僕は構わなかった。僕は間違った事をしているつもりはないのだから。

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