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「正真」3

 結局は説得どころか泰明とは気まずい雰囲気のまま、放課後を迎えてしまった。  さすがにこの状態のままはマズイと思った僕は、鞄に教科書を入れている泰明に声を掛ける。 「泰明……怒ってるの?」  僕が恐る恐る問いかけると、泰明は渋い顔のまま「別に」と呟く。確実に怒っているし、不機嫌なのは目に見えて分かる。 「怒ってるじゃん……」  僕がポツリと呟くと、泰明は立ち上がるなり「先に帰る」と言い残して教室から出ていってしまう。  その後ろ姿を見送りつつ、僕は椅子の背もたれに寄りかかる。止めることは出来たけど、僕はそうしなかった。  きっと泰明は僕が神近くんの肩を持ったことを怒っているのだろう。今までずっと僕の世話をしてきたというのに、たった二日しか会っていない後輩の言うことを優先にしたのだ。飼い犬に手を噛まれたと思っているのかもしれない。  後二日もすれば夏休み入ってしまう。そうなれば、この状況は非常にマズイ。顔を合わせるきっかけを作るのにも苦労するだろうし、先延ばしにして夏休みが明けてしまったらもう修復は不可能になっているかもしれない。  僕はゾッとして、今更ながら焦りを感じてしまう。神近くんに言って、入部は取りやめてもらう方が良いのかもしれない。  僕は立ち上がると鞄を引っ掴み、急いで別棟にあるあの部屋へと向かった。

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