46 / 259

「正真」14

 校門に着くと「まぁー、嘘か本当か分からないけどありがとう。体も軽くなったし、整体に行ったと思えば良いのかな」と姉が呑気に言った。  さっぱりしてる姉だからこそ、こういう反応なのだろう。普通だったら、不安に思うなりするはずだ。  僕の一般論を覆した姉は「朔矢も遅くならないようにね」と付け足すとさっさと立ち去っていく。  姉を見送った僕たちは何とも気まずい雰囲気で、部室へと足を向ける。  僕は内心、動揺していたのだ。何で姉にはキスをしなかったのに、僕にはしたのか……それに姉はなんで取り憑かれたりしたのだろうか。疑問が頭の中を駆け巡り、気付いた時には終始無言のまま、部室に着いてしまっていた。 「先輩。今日はもう帰っていいですよ。入部届は渡しておくので、記入しておいてください」  神近くんは自分の鞄から紙を取り出すと、僕に渡してきた。僕は紙を受け取ると、答えを得るべく口を開く。 「神近くん……あのさ——」 「代償なら要らないです。これは入部祝いってことで」  僕の言葉を遮り、神近くんは机上に散らばるパズルを片付け始める。背中を向けている神近くんが、どんな顔をして言っているのか分からない。  それでも神近くんなりの親切なのだということは分かる。そうじゃなければ、見えてもほっとけばいいだけなのだから…… 「……ありがとう」  僕はパズルを箱に入れていく、神近くんの背に声をかける。

ともだちにシェアしよう!