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「正真」14
校門に着くと「まぁー、嘘か本当か分からないけどありがとう。体も軽くなったし、整体に行ったと思えば良いのかな」と姉が呑気に言った。
さっぱりしてる姉だからこそ、こういう反応なのだろう。普通だったら、不安に思うなりするはずだ。
僕の一般論を覆した姉は「朔矢も遅くならないようにね」と付け足すとさっさと立ち去っていく。
姉を見送った僕たちは何とも気まずい雰囲気で、部室へと足を向ける。
僕は内心、動揺していたのだ。何で姉にはキスをしなかったのに、僕にはしたのか……それに姉はなんで取り憑かれたりしたのだろうか。疑問が頭の中を駆け巡り、気付いた時には終始無言のまま、部室に着いてしまっていた。
「先輩。今日はもう帰っていいですよ。入部届は渡しておくので、記入しておいてください」
神近くんは自分の鞄から紙を取り出すと、僕に渡してきた。僕は紙を受け取ると、答えを得るべく口を開く。
「神近くん……あのさ——」
「代償なら要らないです。これは入部祝いってことで」
僕の言葉を遮り、神近くんは机上に散らばるパズルを片付け始める。背中を向けている神近くんが、どんな顔をして言っているのか分からない。
それでも神近くんなりの親切なのだということは分かる。そうじゃなければ、見えてもほっとけばいいだけなのだから……
「……ありがとう」
僕はパズルを箱に入れていく、神近くんの背に声をかける。
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