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「正真」16
「せめて家まで送って!」
僕は思わず口走る。まるで女の子みたいなセリフに、けして羞恥心がなかったわけじゃない。でもそれを凌駕するほどの恐怖が、僕を支配していたのだ。
半泣き状態の僕に、神近くんは呆れたように溜息を吐き出す。
「先輩は一体いくつなんですか? 恥ずかしくないんですか?」
「年上とか年下とか関係ないよ。怖いものは怖いんだ」
僕は神近くんの腕を掴み、一人で帰らせまいとする。
「怖いのが苦手なわりには、オカルトマニアじゃないですか」
「オカルトマニアじゃないから……」
「どっちにしろオカルトが好きなんでしょ」
神近くんが正論を吐き、僕は諦めたように腕を離す。確かに神近くんには恩があるし、これ以上僕の都合で付き合わせるのは申し訳ない。
「泰明に迎えにきてもらおうかな……」
ポツリと零した後に、気まずい雰囲気で別れた事を思い出す。すっかり忘れていたが、泰明の方はどうしよう。僕はある意味で、板挟みになってしまっていた。
「……分かりました。家まで送れば良いんでしょ」
神近くんが面倒くさそうな顔で、僕に一瞥をくれる。
僕は驚いて「良いの?」と聞き返すと、「早くしてください」と言って神近くんは先立って部屋を出てしまう。なんだかんだ言いつつも、神近くんはやっぱり優しい人なのだ。
僕は鞄を肩にかけると、神近くんを慌てて追いかけた。
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