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「正真」21

「神近くん、ちょっと近寄りがたい感じなんで……クラスのみんなとは一線置いているというか……あんまり話しとかしないんですよね……」  彼は視線を俯かせると、「それに神近くん、先輩や先生に目をつけられてるみたいなんです……」とポツリと零す。  やっぱりあの感じだと、目をつけられても仕方がないだろう。あまり激昂しない泰明が、キレたぐらいだ。他の生徒だったら喧嘩になっても不思議ではない。 「やっぱりそうなんだね……もったいないよ……」 「何がですか?」 「神近くん、本当はすごく優しいからさ。僕は何度も助けられてるから分かるんだよね。なん でああいう態度を取っちゃうのかわからないけど……素は悪い人じゃないと思う」  僕は思わず苦笑いを零す。後輩の話を聞いた僕は、神近くんをこのまま放ってはおけないなと思ってしまう。 「そうですか……先輩にだけは心を開いているのかもしれませんね。同好会も彼一人でやって るって噂は聞いてましたけど、先輩が入るんだったら当面は廃部の心配はなさそうですね」  彼は微かに頬を緩めると「僕も部活に行かなくちゃいけないので」と言って、僕に頭を下げる。頭を下げられるなんて初めての経験で、僕はこんな時にも関わらず先輩になったんだなぁと感慨深く思えてしまう。

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