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「正真」29
『いいですよ……別に……』
神近くんはそう言って黙り込んでしまう。
そういえば神近くんは一人暮らしをしている。体調が悪いと何をするにも不便でならないだろうし、食料を買いに行くのだって大変なはずだ。
「神近くん! 今からそっちに行っても良い?」
『そっちって、何処ですか?』
「神近くんの家に決まってるじゃん。体調悪いんだし、何か買っていくよ」
僕は通話しつつ、すでに足は下駄箱に向かっていた。
『結構です。面倒事を家にまで持ち込まれたくないんで』
「そんな事言わないでよ……神近くんには助けられてばかりなんだから、僕も先輩として何かしたいんだ」
『先輩って……お節介とか、面倒くさい奴とか言われません?』
神近くんの言葉に僕は思わず黙り込む。今までそんな事を言われたことはない。
気づかないうちに、僕は恩着せがましい事をしてきたのだろうか……逆に、甘えてばかりで自分から何かしようとしてこなかったから、言われなかったのだろうか……そのどちらかのように思う。泰明に対しては明らかに後者だけど。
「……ない、けど」
『そうですか。これはお節介なので、結構です。来てもらった所で、面倒事が増えそうなので』
「じゃあ……せめて中には入らないから、お見舞いだけさせてくれないかな?」
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