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「訪問」8
「女の人でした。先輩が見えてないということは、生きていないということでしょうね」
「よく……ある事なの?」
「まぁ……見えるって分かれば追っかけてくるやつもいますから……」
神近くんが顔を顰めて俯く。神近くんはこんな怖い経験をいつもしているのだ。僕は見えない人間だかはこそ、夏の風物詩の一つとして怪談話を楽しんだり出来る。実際に恐怖を日常生活で経験している人からしたら、きっと嫌な人間に感じているのかもしれない。そう考えると僕は罪悪感に苛まれてしまう。
「神近くん……ごめん」
体を起こした僕がポツリと零すと、神近くんが目を見開き僕を見つめる。
「なんで先輩が謝るんですか?」
「僕……見えないからこそ、オカルトを娯楽の一つとして楽しんでたのかもしれない。神近くんは毎回、こんな怖い経験してるのに……」
胸が詰まったように苦しくなっていく。
「別にいいです……オカルト好きの霊感がある人だっていなくはないでしょうし、誰かが好きな事が誰かの嫌いである事なんて他にもザラにあると思いますから」
神近くんは溜息を吐き出すと「そんな事より、どうでした?」と表情を和らげ悪戯っぽい笑みをこぼす。
「なにが?」
「今のキスですよ。先輩、怖がってたわりには反応良かったんで」
神近くんの言葉に、僕は一気に体の熱が上がってしまう。
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