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「訪問」18
「……まったく」
神近君の呆れたような声が聞こえ、しばらくすると脇を抱え込まれ無理やり立たされる。
「ほら、ベッドに行きますよ」
僕は神近君に背を押されるようにして、ベッドに乗りあがると座り込む。シングルの狭いベッドでは、男二人で寝るのは狭いはずだ。
「僕、下で寝るよ」
欠伸を噛み殺し、ベッドに腰かける神近君に視線を向ける。
「俺は良いです。先輩が使ってください」
「駄目だよ。神近君、病み上がりなんだから」
僕はそう言って下に降りようとする神近君の腕をつかむ。眠すぎて手に力が入らない。その気になれば、あっさり振り解かれてしまいそうだ。
「それなら――」
ふと、神近君が悪戯っぽい表情で僕を見つめてきた。
「一緒に寝ますか?」
「もうそれでいい!」
そう言って僕は神近君の腕を引くなり、ベッドに横になる。とにかく眠いし、押し問答し続けるのがめんどくさい。
隣に横になった神近君が「積極的ですね」と言った言葉を聞こえないふりして、僕は重たい瞼をやっと心置きなく閉じた。
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