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「訪問」32

「あんたが怖い番組とか見てるせいじゃないの?」  母が横槍を入れてくるも、「僕は関係ない。もう祓ってもらったんだから……今はねぇちゃんの彼氏の素行が悪いせいだ」と僕は反論する。 「そういえば、最近は戸棚が勝手に開かなくなったわねー」  母がそう言って首を傾げる。やっぱり戸棚が勝手に開く原因は、僕に憑いていた霊の仕業だったようだ。 「朔矢、よく覚えておきなさい。付き合うのは比較的簡単だけど、別れる方が大変なのよ」  姉が言うなり僕に人差し指を突きつけた。確かに結婚より、離婚の方が何倍も労力を使うという。だからといって、今回ばかりは簡単に引き下がるわけにはいかない。 「でも、このままだとねぇちゃんだけじゃなくて、神近くんや僕にまで被害が来るんだけど」 「分かったわよ!調べてみるけど、これで違ったりでもしたら一生恨むからね」  姉は僕を睨みつけると、野良犬を追い払うようにしっし、と言ってテレビへと視線を戻してしまう。  こうなってしまったらもう、何を話しかけても聞く耳を持たないだろう。  あのしつこい訪問者より、姉の方がよっぽど厄介だ。僕はそう思わずにはいられなかった。

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