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「訪問」31
駅での別れ際、「今は着いてきてませんが、ちゃんとお姉さんに言ってください」と神近くんに念を押されてしまう。
家に着いた頃には、洗ったシャツが意味をなさないほどに汗で濡れてしまっていた。自分の部屋で部屋着に着替えた僕は、リビングで母とテレビを見ている姉に声をかける。
「ねぇちゃん。話あるんだけど」
「なぁに? 夏休み初日から昼帰りだなんて、あんたもとうとう大人の男かぁー」
言うなり姉が下世話な笑みを浮かべる。
「ち、違うから! 神近くんの家にいたんだよ! ねぇちゃんもお祓いしてもらっただろ」
僕は慌てて否定するも、内心は心臓がうるさいぐらいに鳴っていた。あのまま神近くんに流されていたら、僕はどうなっていたのだろうか。
「あぁーあのイケメンの子ね。確かこれからは部活の後輩になるんだっけ?」
姉が考え込むように頬杖をつく。後輩ではなく、あっちが部長なのだと口が裂けても言えない。
「まぁ、まぁね……そんな事より——」
僕ははぐらかすと、姉に昨夜の出来事を掻い摘んで話していく。もちろん、神近くんとの言い争いやキスした事を除いてだったが……
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