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「訪問」30
今までそんな風に、意識したことなどなかった僕は困惑していた。教室でみんなで着替えても、なんとも思わなかった。決して男だからというわけではなく、神近くんだから意識してしまうのだろうか。
「先輩。なんで顔が赤いんですか?」
神近くんがベッドに腰かけると、僕に訝しげな視線を投げかける。
「……僕にも分からないんだ。だから戸惑ってる」
「何をです?」
「神近くんに言ったら馬鹿にされそうだから、やっぱり言いたくない」
急な羞恥心が芽生えた僕は、そう言って制服のシャツを手に持つなりキッチンへと向かった。
準備を終えた僕たちは、灼熱地獄の中を駅へと向かっていく。
途中にあるファーストフード店で、軽い昼食を取る事にした。外に出たくないほどの店内の涼しさに、僕たちは緩慢な動きで食事を進めていく。
「そういえばさ、神近くんは夏休み期間中に実家に帰らないの?」
僕はふと思い至って、ポテトを黙々と口に運ぶ神近くんに問いかける。
「帰りませんよ」
神近くんはなんてことないように返答する。
「どうして?」
「帰りたくないからです」
きぱりと言い切る神近くんにこれ以上聞くことが出来ず、僕は口を噤む。もしかしたらこっちの学校を選んだのも家庭の事情によるところなのかもしれない。
家が神社ということは何かと規則が厳しかったりするのだろうか。迂闊には聞けない雰囲気が神近くんから漂っていた。眉間に皺を寄せて、少し不機嫌そうにモソモソと口を動かしている。気を許されていないのだと分かり、僕は密かに落胆した。
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