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「嫉妬」8
僕がそちらに視線を向けると、校門の前に黒の日傘をさした女性が立っていた。長い黒髪が傘の隙間から覗き、白っぽいワンピースに黒のカーディガンを着ている。
こんな暑い中、あんな場所で人を待っているのだとしたら自殺行為だ。
ふと、その女が傘を上げこちらを見やった。目が合いそうになり慌てて、僕は机に突っ伏す。その瞬間、パズルがカサカサと音を立てて山が崩れてしまう。
「あっ! ごめん!」
せっかく神近くんが分けていたのに、一部の色が混じり合ってしまった。
「……別にいいです」
神近くんがいたって普通のトーンで、散らばったパズルを再び仕分けていく。
「えっ……」
いつもだったら、ピースの嵌め間違えや色分けの際に違う山に置いたりでもしたら、神近くんは冷たい視線を向けつつ「頭が足りないんじゃないんですか?」とすかさず毒を吐く。それが今は、黙々と仕分けていた。
「なんで、怒らないの?」
「そんなに俺に怒られたいんですか。怒れって言うなら怒りますけど」
そんな事より、と神近くんは話を転じる。
「あそこの女に覚えはないんですか?」
もう一度、恐る恐る視線を向ける。こちらをじっと見てニタリと笑っていた。
「うわぁー! こ、こっち見て笑ってるっ!」
僕は恐怖のあまり椅子から立ち上がり、逃げるようにして教室の隅で蹲る。危うく塩の盛られた豆皿までを踏みそうになり、僕は堪らず悲鳴を上げた。
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