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「嫉妬」9

 まさかあの女が自分に生霊を飛ばしているのだろうか。遠目で、しかもちらっとしか見ていない。それでも若い女性だと分かった。だからといってそんな知り合いなんて思い当たらない。  僕はどうしよう、これでは帰るに帰れないとパニック状態で半べそをかいていた。目元の涙が滲み、どうしようもない震えが襲いかかる。 「……先輩」  僕の背に手が触れ、ゆっくりと顔を上げる。神近くんが直ぐそばに居て、僕の顔を険し表情で覗き込んでいた。 「さっきはすみません。取り殺されろなんて言ったりして……本当はそんな事思ってませんから」 「神近くん?」  急にしおらしくなっている神近くんに、僕は視界の霞む瞳を向ける。 「怖がりだって知ってたはずなのに、口から出るのは先輩を怖がらせることばかりで……」  神近くんの瞳が僅かに揺れる。不安気な声音。少し青ざめているような白い頬。  微かに僕の背に乗せている手も震えている気がしてならない。でも、もしかしたら僕が震えている振動がそう感じさせているだけなのかもしれなかった。 「俺……やっぱり恋人失格です」 「んっ? へっ? 恋人?」  神近くんの一言に、僕は素っ頓狂な声を出す。神近くんは訝しげに眉根を寄せて首を傾げる。なんで神近くんが、首を傾げているのか分からない。僕の方が首を傾げたいぐらいだ。

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