104 / 259
「嫉妬」10
「僕達……付き合ってるの?」
何処かで聞いたことがあるセリフを自分の口から、ましてやこの状況で発することになるとは思ってもみなかった。
「そうじゃないんですか? 先輩、好きだって言ったじゃないですか」
「言ったようなものかもしれないけど……でも、逆に僕は神近くんから好きってことは、聞いてないんだけど……」
神近くんの気持ちもちゃんと聞いてない事に加え、付き合うっていう話もしていない。あの日の夜、僕は一方的に思いを告げるだけで終わってしまったように思える。
神近くんもあの日以来、その夜の話はしてこなかった。だからてっきり、なかったことにでもなっているのだと、僕は複雑な気持ちで過ごしていた。
ほっとしたようで、寂しい。答えが得られない思いがこんなにも苦しいものだとは、僕は十六年間生きてきて初めて知ったかもしれない。
それが今、天変地異が起きたのかと思われるような出来事が起きていた。神近くんが僅かに頬を上気させて俯いている。明らかに照れているのだと分かり、僕まで恥ずかしさがこみ上げてしまう。
再度顔を俯かせ、床に視線を落とす。ホコリやゴミが落ちていないのは、綺麗好きな神近くんが頻繁に掃除をしているからだった。
痛いぐらいの沈黙が部室内を満たし、蝉の鳴き声がだけが嫌に耳障りに聞こえてしまう。
俯いている僕の頬に少し冷たい指先が触れ、僕はゆっくりと顔を上げる。神近くんと視線が交じり合い、心臓が高鳴った。
神近くんの掌が僕の頬を包み、空いた方の手が僕の肩に触れる。美術室にある石膏と遜色のないほどに綺麗な顔が近づき、これが答えなんだと僕は静かに目を閉じた。
ともだちにシェアしよう!