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「嫉妬」32

 親戚の家によく出入りしていた茶トラの野良猫に、神近くんは少し似ているのだ。その猫は我が物顔で家を出入りして、僕が触ろうとするとひらりと交わしてどこかへ行く。  放っておくと、今度は自分から膝の上に乗ってくる。揶揄うように尻尾を左右に揺らし、その尻尾で僕の頬を叩く。触ろうとするものなら噛みつかんばかりに口を開けて首をひねるのだ。嫌なら止めればいいのにと思うも、また僕の頬を尻尾で叩き始める。それに飽きると何処かへ行ってしまう。  でも餌をくれる叔母さんには凄く懐いていて、ニャーニャーと甘えた声を上げてはついて回っていた。  神近くんも懐いている猫みたいに、僕の背後にぺったりとくついている。決して嫌なわけじゃないし、僕も内心は浮かれていた。神近くんのこんな姿を泰明が知ったら、目を引ん剝くかもしれない。そう思うと自然と頬が緩んでしまう。  僕が食器を洗い終えると、神近くんが腕を解いた。 「あーぁ、周りびちょびちょじゃないですか。拭くんで、どいてください」  僕を押しのけるようにして、キッチン周りを拭き始める。さっきまではあんなに甘えてきたくせに、瞬時に切り替えて僕を邪魔者扱いにする。  やっぱりあの野良猫と一緒だ。甘えたと思えば、都合悪くなると噛みつこうと牙を向く。でもそんな姿も憎めない。  恋は人をとことん駄目にするのだと、僕は思わずにはいられなかった。

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