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「帰省」5
タイミングの悪い状況に、僕は居たたまれない気持ちで視線を俯けた。
「こちらはいつだって大歓迎だよ。智依は上京して以来、こっちに帰って来てないからね。どんな理由ではあれ、こちらとしては顔が見れて嬉しいよ」
本当に嬉しそうな弾んでいる口調に、僕も自然と頬が緩んでいく。神近くんの事をちゃんと見てくれる家族がいて、こうして帰省を喜んでくれている。神近くんも久しぶりの再会に緊張していて、表情が険しいのかもしれない。
お兄さんは終始明るく話しかけてくれて、緊張していた僕もいつの間にか肩の力を抜けていた。
十分ほど車を走らせていると、小さなお店や民家がぽつりぽつりと見え始める。
それすらも通り過ぎて見渡しの良い田畑の広がる道路を抜けると、少し坂を上った場所に大きな日本家屋が姿を現わす。
「着いたよ。父さんは神社にいるから、後で行ってみるといいよ。僕はこれから勤務があるからここでお別れかな」
お兄さんは少し残念そうな声で、車を広い庭先に駐車する。
「仕事の前なのにすみません」
わざわざ仕事の前に迎えに来てくれたなんて驚く反面、申し訳なかった。
「良いんだよ。どうせ智代の事だから長居はしないつもりだろ? 少しは兄貴面したかったんだ」
茶目っ気を滲ませたお兄さんは、笑いながら車を降りていく。
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