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「帰省」7
神近くんの部屋は二階の角の一室で、今住んでいる洋室とは趣が違っていた。畳の室内には勉強机、本棚、タンスが置かれ、窓は障子が閉じられ室内がぼんやりと薄暗い。
使った当時のままなのか、勉強机や本棚には高校入試の参考書や、難しそうな辞書がズラリと並んでいる。
「荷物はその辺に置いておいてください。早く行きましょう」
神近くんは自分の荷物を机の上に乗せつつ、淡々とした口調で言った。どこか落ち着かない様子で、僕の方に視線を向けようとしない。
「神近くん。顔色悪いけど大丈夫?」
薄暗い室内だけが原因ではないように思えるほど、神近くんはずっと悄然とした表情で口数も戻る気配がない。
「問題ないです」
神近くんは短く答えると、襖を開いて僕にも外に出るように促す。
玄関に向かって歩いていると、「あら、もう行くの?」と神近くんのお母さんとすれ違いざまに、驚いた顔をされる。神近くんは「早く済ませたいから」とポツリと零してさっさと通り過ぎてしまう。
「ごめんね。せっかちな子で」
「いえ……僕こそ、忙しい時期にすみません」
玄関まで見送ってくれたお母さんに、僕は頭を下げる。
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