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「帰省」8

「良いのよ。あの子、全然友達とか居ない子だったから……向こうに行っても、大丈夫か心配だったんだけど」  僕は思わず息を呑んだ。言葉をつまらせる僕に気にする様子もなく、お母さんは嬉しそうな顔で「でも友達が出来て良かったわ」と安堵の表情で頬を緩めている。  友達以上の関係なんですとは到底口には出せないし、学校でも周囲から疎遠の対象であることも言えるはずがない。はいと肯定する短い言葉を告げて、僕も急いで玄関から外に出た。  風は涼しく吹き付けてくるも、午後の日差しはまだ鋭くて僕は少し怯んでしまう。 「何してたんですか?」  少し苛立ったような声で、神近くんが僕に問いかけてくる。 「ごめん。お母さんと少し話をしててさ」 「……そうですか。行きましょう」  隣に並ぶと、神近くんが少し足早に歩き出す。そんなに早く事を済ませたいのだろうか。どうにも落ち着かない様子に、流石に僕までも落ち着かなくなってしまう。 「神近くん。なんだか変だよ。そんなに僕をここに連れてくるのが嫌だったの?」  僕は少し強い口調で言った。わけも分からず、ずっと不機嫌で居られたらさすがに僕も精神的に辛かった。それでなくても、神近くんの家族に負い目があって、胸が苦しかったのだ。

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