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「帰省」9
「……そうじゃないです」
「じゃあ、なんでそんなに不機嫌なの? ちゃんと言ってくれなきゃわからないよ」
ぎゅっと神近くんの手首を掴むと、足早だった神近くんの歩みが僅かに緩まった。
「……先輩は兄と会って、どう思いました?」
「えっ? 普通に優しそうで良い人だなと思ったけど?」
「そうですか。俺は兄が嫌いです」
きっぱりとした口調に、僕は一瞬言葉に詰まってしまう。
「……どうして?」
「俺が……手に入れたものを全て奪っていくからです」
神近くんが僕が掴んでいた手に触れると、「こういうところ見られると、まずいんです」と言って解かれてしまう。
「奪われるってどういうこと?」
「外面が良いんです。あの人は……ああいう風に好青年を演じて、俺に対しては嫌がらせをして楽しんでる」
神近くんが苦虫を噛み潰したような表情で吐き出した。
「だからタチが悪い」
僕は何も言えなくなってしまう。神近くんがこれだけ嫌悪感を滲ませた表情で、嘘をつくとは思えない。それでもお兄さんがそんな風に見えなくて、僕は混乱していた。
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