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「帰省」10
「どっちを信じるのか……先輩次第です」
黙り込む僕に神近くんは少し冷めたように告げると、道路の左側にあった手摺の付いた石階段を登っていく。僕もその後ろから付いていくと、息が上がり始めたぐらいにやっと境内が見えてくる。
大きな鳥居の向こう側には提灯が吊るされ、参道の両脇には屋台らしき骨組みが立ち並び、前方奥には本殿がどっしりと構えられていた。その周囲を数人の中年男性が、せわしなく歩き回っている。
「凄いね……」
呆気にとられる僕とは対象的に、神近くんは「呑気ですね。これからお祓いするっていうのに」と少し呆れているようだった。
すっかり忘れていたが、僕には生霊が取り憑いているのだと思いだして、スッと血の気が引いていく。
「……そうだった」
「でもこれで大丈夫です。父の腕は確かなんで」
神近くんの表情が少しだけ和らぐ。神近くんが言うのなら間違いないだろう。僕も少しだけホッとして、息を吐き出した。
「智依! よく来たね」
本殿に歩みを進めていた僕達の背後に声がかかり、足を止めて振り返る。
上が白で下が紫に白の模様のついた袴を履いた中年の男性が、こちらに足早に近づいて来るところだった。
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