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「帰省」11
「ああ、君が智依が言っていた子だね」
穏やかな声で頬を緩めている男性は、神近くんのお父さんだろう。最初の頃に泰明から聞いていた通り、真面目で優しそうな雰囲気が漂っている。目尻の皺や頭髪に少し混じっている白髪からして、結構な歳を重ねているようだった。
僕は簡単に挨拶を交わすと、お父さんについて本殿に足を踏み入れる。東京の大きな神社に比べれれば、こじんまりとした印象だけど手入れをされているようで中は清潔感に溢れて綺麗だった。
「お忙しい時にすみません」
謝罪を述べる僕にも、お父さんは優しく「良いんだよ。智代が友達を連れてくるなんて珍しいからね」と言って笑っていた。
神近くんの家族はどこからどう見ても優しくて、穏やかな人たちにしか思えない。それなのに神近くんはずっと表情が暗く、こっちに来てから一度も笑っていなかった。それが僕には気がかりでならなかった。
案内された広い一室で「そこに座って、待ってて」と言われ、部屋の中心に置かれた椅子に僕と神近くんは腰掛ける。目の前に台の上にお供え物や榊が飾られ、中心には大きな丸鏡のような物が置かれていた。
初めての事で緊張していた僕は、手のひらの上に乗せていた拳を無意識に握り締めていた。
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