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「帰省」29
でも、僕たちは午前中には帰る予定になっていた。だから神近くんをなんとか引き止めて、帰る時間を先延ばせれば話をする時間を作る事が出来る。
お祭りに行きたい気持ちもないわけではない。でも本当の目的は、お兄さんから神近くんの事を聞くということが大きかった。
それに加え、神近くんの過去を何も知らない僕は、その提案に直ぐには首を横に振ることが出来なかったのだ。
困惑する僕にお兄さんは立ち去り際、神近くんにバレたら確実にお兄さんと僕を近付けないようにするだろうし、関係が悪化するのも目に見えてわかる。だからこの事は内密にと、釘を刺されてしまっている。だから神近くんにはお兄さんと会ったことや、これから会うことは言えなかった。
「どうしたんですか? 急に大人しくなって」
黙り込む僕を変に思ったのか、神近くんは首を傾げて怪訝そうな顔をした。
「……ごめん。大丈夫」
僕は居たたまれない気持ちで俯くと、ぽつりと零す。
「そろそろ朝食の時間なので戻りましょう」
疑問を顔に張り付けたまま、神近くんはそう言い残して箒を片づけに本殿の裏に行ってしまう。
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