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「帰省」31
「逆によく、汚い部屋にいれるなって思いますけど」
畳の目に沿って掃除機をかけながら神近くんが言う。
「僕……あんまり掃除しないし、苦手だから」
「知ってます。泊まりに来た時に思いました。まともに茶碗すら洗えないですからね」
神近くんが呆れたような、哀れんでいるような目で僕を見る。その目は心なしか、お兄さんが僕に向けた視線に似ていた。
「……ーー」
罪悪感から黙り込んだ僕に、神近くんは「そんなに落ち込むことないじゃないですか」と言って掃除機を隅に寄せた。
「別に出来なくたって、俺が教えれば良いだけですから」
「……神近くん」
そんな事を言ってくれる神近くんに嬉しさと、裏切っているという罪悪感が押し寄せてきてしまう。やっぱり本当の事を言って、お兄さんの話を聞くのを止めるべきなのだろうか。
「手を洗って来ます」
僕がうだうだ悩んでいると、神近くんはそう言って部屋を出て行ってしまう。僕は浅く息を吐きだし、モヤモヤした気持ちを持て余す。
静かな部屋には蝉の鳴き声が都会よりも騒がしく聞こえ、それ以外は木々が風に騒めく音だけだった。
しばらくすると神近くんがお盆を片手に戻ってくる。お茶の入ったコップとお菓子が数種類、お皿に乗っていた。それをテーブルに置くと、神近くんが僕の隣に腰を下ろす。
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