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「帰省」32

 僕がぽつりと呟くと、「何もないところですから」と言って神近くんがコップに口をつけていく。 「ねぇ、小さい頃のアルバムとかないの?」  実家なのだからそういったのは絶対にあるはずだし、神近くんの幼い頃の姿を見てみたかった。 「ありますけど見せません」 「えっ? なんで?」 「嫌だからです」  膨れる僕に神近くんは、そんなもの見たってしょうがないでしょと言ってあしらわれてしまう。 「……神近くんって、あまり過去の話とかしてくれないよね」  僕はついポロリと本音が漏れてしまう。 「あまり良い思い出がないので、話したくないだけです」 「そんなに僕って信用できない?」  僕は乾いた唇を湿らすように、コップのお茶を口に含む。 「信用しているから、実家に連れてきたんですけど」 「えっ?」  思わずコップを手に持ったまま、神近くんを凝視してしまう。 「俺が実家と疎遠なことは分かってますよね? 本当だったら帰ってきたくなかった。でも先輩の件もあったし、先輩なら大丈夫だろうって思ったから連れてきたんです」  神近くんは僕の手からコップを奪うとテーブルに置き、手首を掴んだのち顔を寄せてきた。

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