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「虚像」5
「そっか……でもあんまりにも酷いようなら僕に言いなよ。連絡先教えておくね」
そう言ってお兄さんはスマホを取り出す。断るのも変だからと、僕はあまり乗り気ではなくともスマホを取り出した。
「なんかあったら、いつでも連絡してきなよ」
「……はい。ありがとうございます」
僕はそう言って立ち上がると、少しフラついた足取りでお兄さんの部屋を出た。僕はそのまま神近くんの部屋へと向かう。もしかしたら神近くんが戻って来ているかもしれないと思ったからだ。
部屋の襖を開けると、中には誰もいない。連絡も来ていないし、神近くんが戻って来た様子もなさそうだった。僕は部屋に入って力無くしゃがみ込む。
ぼんやりとした視線を部屋の窓に向け、白くボリュームのある雲を見つめているとスマホが震え出した。神近くんは「これから戻ります」と言うなり、直ぐに電話が切れてしまう。
どんな顔をして会えばいいのか分からない。お兄さんの言っていたことは、本当なのか嘘なのか……神近くんに直接聞いてみるのが一番良いのは分かっていた。こんな時、姉だったら単刀直入に聞くだろう。そんな姉の猪突猛進な姿が目に浮かび、それを今は羨ましく思えてならなかった。
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