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「虚像」7
車を道の端に止めると、三人で神社の石階段を上っていく。昨日まではブルーシートが掛かっていた屋台が、今はすっかり取り払われていて万全の状態となっていた。人の行き交いも増していて、あっちこっちで和やかな笑い声が上がっている。
お父さんに案内されて、本殿の横にあった蔵に入ると、立派なお神輿が置かれていた。金色の鳳凰が頂点で羽を広げ、この神社の本殿を模したであろう中心部分は威厳がある。
このお神輿を夕方には、村の氏子たちが担いで回るとの事だった。こんなに立派で本格的なお祭りの主催者である神近くんの実家は、やっぱり凄いと思わずにはいられない。
「凄い立派ですね」
感嘆の声をあげる僕に、お父さんは嬉しそうに微笑む。
「ありがとう。午後五時から始まるから、楽しんでいってね」
お父さんはそこでふと、「せっかく友達をこっちに連れて来たんだから、いろいろと案内してあげたら良いんじゃないのか」と思い立ったように切り出した。
「見せるようなとこないから」
神近くんは憮然とした表情で、俯いてしまう。
「ほら、昔よく行ってた綺麗な川が流れる山があるじゃないか。水遊びでもして、涼むのもいいんじゃないのかな」
「先輩は行きたいと思いますか?」
固唾を呑んで見守っていた僕に判断を委ねられ、体が跳ね上がる。
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