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「虚像」8

「う、うん。行きたいかな」 「分かりました」  そう言って神近くんは先に蔵から出て行ってしまう。残された僕とお父さんは顔を見合わせて苦笑する。 「智代は君には、そうとう懐いてるみたいだね」  深い意味はなくとも、僕は少し照れ臭くなってカァッと体が熱くなる。 「智代の事、よろしくね」  お父さんはそう言って僕の肩を叩くと、蔵の外に出るように促した。  蔵から出ると神近くんは本殿の柱に寄りかかって、ぼんやりと視線を宙に投げていた。午後の日差しが周囲の木々から射し込み、蝉の鳴き声が喧しいぐらいに響き渡っている。蔵の中の蒸し暑さに比べたら、外の方がまだ風があって涼しい。 「神近くん」  僕が声をかけると、神近くんの視線がこちらに向けられる。 「行きますか」  そう言って神近くんは先立って歩き出す。慌てて僕も隣に並んだ。  神社の裏手側には山に続く道があるようで、木々が左右を覆い尽くしている石階段を登っていく。  木々が陽の光を遮ってくれているおかげで、茹だるような東京の暑さに比べたらまだマシに思えた。東京はどこもかしこもアスファルトだらけで、熱がこもっているせいなのかもしれない。

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