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「虚像」12

「兄さんは俺が視えたと言う度に、それを周囲に嘘を吐いていると吹聴して回ってましたから。兄さんは優秀で、人当たりもいい。だからみんな俺よりも、兄さんを信じていたんです」  僕はギュッと唇を噛みしめる。やっぱり神近くんは嘘など吐いていなかったのだ。 「母さんや父さんも内心では、俺の発言に対して口には出しませんでしたが信じていなかったと思います。ただ困った顔をするばかりでしたから……」 「……神近くん」  僕は神近くんの手に、そっと自分の手を重ねる。 「別に良いんです。見えない人間に信じろって言うのが、そもそも無意味なことなんで。それぐらい分かります」  どこか投げやりな言い方の神近くんに、僕は堪らず神近くんに抱きついた。  やや低い手の冷たさとは正反対に体は熱く、仄かに汗の匂いがした。横向きの神近くんの肩口に顔を埋め、「ごめんねごめんね」と僕は何度も言葉を繰り返す。 「なんで、先輩が謝るんですか? 俺だって知ってて止めなかった。先輩を試したんですよ」  神近くんの手のひらが僕の頭を優しく撫でる。汗で湿っているかもしれないと、少し恥ずかしかった。

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