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「虚像」11
「朝方、神近くんを迎えに行った時。お兄さんに会ったんだ。話を聞きたければ、午後まで時間を作って欲しいって……」
僕は俯いたまま、神近くんの少し汗ばんだ腕から手を離す。
「その時に、ちゃんと神近くんに言っておけば良かったんだ。神近くんがお兄さんを苦手と知っていたはずなのに、僕は……神近くんの事を知りたくて……」
自分の好奇心を優先して、僕は神近くんの気持ちをちゃんと考慮してあげなかった。たとえ神近くんが答えてくれないからといって、騙してこそこそやるのは間違いだったのだ。
「それに……お兄さんから話を聞いた時、もっと神近くんを庇ってあげれば良かったんだ。僕が一番、神近くんを信じてあげなくちゃいけないはずなのに」
気づけば僕はボロボロと涙を零していた。先輩として、恋人として、こんなことでは神近くんに愛想つかされてもおかしくない。なぜ、その時には気付かなかったのだろうかと、今更後悔で胸が締め付けられた。
「……知ってました」
「えっ?」
僕がきょとんとした顔で見上げると、神近くんは僕の隣に腰を下ろす。
「兄さんが、先輩に俺の話をすることは分かっていました。父さんが僕を呼び出した時、なんとなくそんな気がしていましたから」
神近くんは自嘲しているように、薄ら笑みを浮かべる。
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