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「虚像」10

「兄から――」  神近くんが口を開くと、裸足になって水面に足を浸す。 「俺の事、聞いたんですよね」  神近くんはぼんやりと、視線を川の向こう側に向けている。 「……うん。聞いた」  ここで嘘を言ってもしょうがないと、僕は膝を抱え込み素直に頷く。聞かれるとは何となく分っていた。神近くんはずっと浮かない表情をしていたし、僕も態度に出ていたかもしれない。 「それなら何で、聞いてこないんですか?」 「僕自身、整理が付かなかったから」 「それは……どういう意味ですか?」  少し硬い口調の神近くんをちらりと横目で見る。神近くんは顔を顰め、川面に視線を落としていた。 「お兄さんから話を聞いた時、僕は正直戸惑った。だから……神近くんをちゃんと信じてあげられない自分に腹が立ってーー」 「先輩も、俺が嘘をついていると思っているんですか」  神近くんが吐き捨てるように言って、水から出るなり立ち上がってしまう。 「ち、違う! そうじゃないんだ!」  慌てて僕は、神近くんの腕を掴む。血の気が引いて、川から流れ出る冷気がやたらにひんやりと感じる。 「僕は神近くんを騙してた事に後悔してて……」  掴んでいた手にギュッと力を入れると、神近くんが「騙してたって何をですか?」と僕を冷ややかな目で見下ろした。

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