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「虚像」15
家に着くと、僕は促されるままに先にシャワーを借りることになった。清潔な服に着替え、神近くんの部屋に向かう。
交代で神近くんが部屋を出ていくのを見送ると、緊張が緩んだせいかどっとした疲れが押し寄せ、体を横たわらせているうちに僕はすっかり眠り込んでしまっていた。
神近くんに起こされた時はだいぶん陽が傾き始めていて、窓から差し込む朱色の光が眩しいぐらいになっていた。
「ごめん。寝ちゃってた」
僕が目を擦りながら体を起こすと、神近くんは「そのまま寝かせていようかと思ってました」と言って口元を歪める。
「でも先輩、後で喚き出しそうだったから」
「そんな喚いたりなんかしないよ!」
軽口を叩き合いながら僕たちが部屋を出ると、お兄さんがちょうどこちらに向かって歩いてくるところだった。瞬時に僕の心臓が跳ね上がる。
「これからお祭り行くんだよね?」
お兄さんに話しかけられ、僕は体が強張ってしまう。昨日会った時とは百八十度見方が変わった今、どう接すればいいのか分からなくなっていた。
「そうだけど」
黙り込む僕の代わりに、神近くんが淡々とした口調で返す。
「僕もね、警備でこれから出勤なんだよ。神社の前まで送って行こうか?」
お兄さんはにっこりと微笑み、車のキーを手の中で弄ぶ。
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