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「虚像」21

「佐渡くん」  名前を呼ばれ驚いて振り返ると、神近くんのお兄さんが制服姿で自転車に跨っていた。 「一人で帰るのは危ないと思って、追いかけてきたんだ」 「えっ?」 「さっき智代が、前の彼女といたのを見たからね。君が傍にいなかったから、気をきかせて先に帰ってるんじゃないのかなと思ったんだ」  僕は思わず立ち止まる。やっぱりあの女の子は神近くんの元カノだったのだ。分かってしまうと余計に、胸がわしづかみにされたように苦しくなってしまう。 「どうしたの?」  立ち止まった僕を不思議に思ったのか、お兄さんが首を傾げる。 「……いえ」  これではまるで、僕がショックを受けているように思われてしまう。僕は不安を無理やり押し隠して「お兄さんは、僕なんかに着いてきて大丈夫なんですか?」と問いかける。 「大丈夫だよ。昨日も言ったけれど、これも職務の一環だからね」 「……そうですか」  正直のところ、出来れば一人にして欲しかった。神近くんの事を考えると、僕はどうしても気分が沈んでしまう。それにお兄さんは鋭いから、僕の感情の変化に目ざとく気づいてしまうかもしれなかった。 「お祭り楽しくなかったの?」  案の定、浮かない表情の僕に、お兄さんが聞いてきた。

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