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「虚像」20

「悪いけど、明日帰るんだよね」  神近くんが微かに顔を顰めて、視線を逸らす。 「僕、先に帰ってるから話しなよ」  僕がそう言うと、二人の視線がこちらに向けられた。お兄さんの話が本当ならば、神近くんはあまり周りの人から良い風に見られていない可能性があった。この女の子との関係性が気にはなったけれど、神近くんの事を気にかけてくれる人を蔑ろにするわけにはいかない。 「神近くん、あまり帰省しないでしょ? こっちの友達も大事にしたほうが良いと思うよ」 「でも先輩、一人で帰れないじゃないんですか?」 「大丈夫だよ。僕の事は気にしないで。お母さんには僕から言っておくから」  それでも渋っている神近くんを残して、僕は逃げるようにして足早にその場を立ち去った。石階段を降りると、僕はやっと速度を落として歩き出す。  僕は内心、不安で堪らなかった。泣きたい気持ちをぐっと唇を噛み締めて抑え込む。あの二人の雰囲気が、何だか普通の友達とは違っているようにも思えてならなかった。  元カノなのか……それとも、どちらかが好意があるのか……もしかしたらよりを戻したり、付き合ったりするかもしれない。  それに街灯の少ない田舎の田んぼ道は、寂しさと恐怖を掻き立ててくる。すごく怖いけど、それ以上に神近くんを失うかもしれないという方が、僕には怖かった。

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