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「虚像」23
けれども神近くんがその子に気持ちがなくて、簡単に手を引いたのは何だか納得がいかなかった。僕たちが付き合ってそんなに経ってはいなくとも、神近くんがそんなに不誠実な男だとは僕には思えないからだ。
「どうして君が辛そうな顔をするの?」
「えっ?」
「いや……僕の勘違いだったら申し訳ないんだけどーー」
お兄さんはそう言って言葉を切った。もしかしたらバレたかもしれないと、僕は緊張で冷たい汗が背筋を伝っていく。
「智代とはただの友達だよね?」
「……そうですけど」
やっぱりお兄さんは、僕と神近くんの関係を怪しんでいた。喉が締められたように苦しくなって、心臓がバクバク打ち鳴らしてしまう。
「なんかさぁ、智代は君に対してだけは態度が明らかに違うし、君も友達にしては元恋人の事をやたらと気にしてるようだから……」
お兄さんらスッと目を細め、まるで僕の表情を見逃さまいとしているようにも見えた。
周囲は街灯以外の明かりはない。よくよく見ないと、相手の表情なんて分かりはしないはず。でもお兄さんの事だから、相手の心を読むのも長けていそうで怖かった。
「僕が……彼女とか出来た事がなかったので、年下の神近くんはもう彼女とかいたりしてたんだなぁって……驚いただけです」
僕は必死に言い訳を口に出していく。
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