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「虚像」28
スッと襖が開く気配がして、僕は緊張で全身が凍りついた。廊下の明かりが窓に向かって伸びていて、人影も映し出される。
その影の主が部屋に入ってくるなり、襖を閉める音がした。まさか入ってくるなんて思っていなかった僕は、心臓の音が聞こえてしまうんじゃないのか、というぐらいドキドキしていた。
「先輩……起きてますよね?」
「えっ?」
思わず振り返ってしまった僕は、気付いた時には遅かった。神近くんが僕を見下ろすように座っていて、クスクスと笑っている。
「先輩がバタバタしてるの、廊下まで聞こえてましたよ。何で寝たふりなんてしようとしたんですか?」
神近くんの問いかけに、僕はだんまりと口を噤む。
「なんで目が赤いんですか?まさか……怖くて泣いてたとか」
神近くんが僕の頬を指でなぞっていく。その優しい指先に、僕の中で燻っている感情がまたしても吹き出しそうになってしまう。
僕は咄嗟に布団に潜り込んだ。部屋の中は冷房が効いていて涼しいけれど、布団の中はやっぱり暑い。それでも、泣きそうな顔を見られなくなかった。涙が溢れそうになって、ぐっと奥歯を噛みしめる。
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