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「虚像」27

 暗い和室に入ると、電気をつける。すでに布団が敷かれていて、僕はその上に力なく倒れこんだ。  神近くんは本当によりを戻してしまうのだろうか。僕は男だし、一時の気の迷いだったと言われてしまったら、何も言えなくなってしまうだろう。  それに、神近くんが本当は彼女の事が好きだったのに、お兄さんに取られたせいで諦めたのだとしたら……その事を彼女が謝ってきて、もう一度やり直したいと言いだしたとしたのなら……  考えれば考えるほど、頭が真っ白になって涙が溢れ出す。頭を乾かしていたタオルで目元を拭っても、それが無駄な事のように次から次へと涙は流れ出した。  しまいには嗚咽まで溢れてしまい、誰もいない事がこの時ばかりは有り難い。  そうこうしているうちに、僕は泣き疲れたのかいつの間にか眠り込んでしまっていた。  気がついた時には、電気もつけっぱなしのままになっていて、僕はのっそりと上体を起こしていく。寝ながら泣いていたのか、目が痛いし頬が涙で濡れていた。  スマホで時間を確認すると、まだ九時を過ぎたばかりで、あれから一時間は経っているようだ。  神近くんは帰ってきているのだろうかと、腰を上げかけるもこんな顔で会ったりでもしたら問い詰められそうだった。どうしようかと迷っているうちに、廊下を歩く足音が聞こえ、僕は慌てて立ち上がり電気を消すと布団に潜り込む。

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