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「虚像」26
「知り合いに会ったみたいで……先に帰って来ました」
「あらー、そうなの。困った子ねー友達を放ったらかしにして」
「あっ、良いんです。明日僕たち帰っちゃうんで……今ぐらいしか話出来ないでしょうから……」
本当はどんな話をしているのか気になるし、お兄さんの言葉が本当だったらと思うと気が気ではなかった。
「本当に佐渡くんは良い子ねぇ。あっ、そうそう。私これから向こうに行って、打ち上げの準備をしなくちゃいけないのよ。もし、お腹空いているようなら、冷蔵庫に作り置きがあるから勝手に食べてね」
お母さんはそう言って、僕に優しく笑いかけてくる。
「すみません。ありがとうございます」
「遅くなるかもしれないから、戸締りして寝ちゃってね」
「分かりました」
僕が頷くとお母さんはそのまま框を降りて、外に出て行ってしまった。
静まり返っている家の中は広さも相まって、寂しさをかき立ててくる。僕は憂鬱な気分のままシャワーを浴び、あてがわれている部屋へと向かった。
神近くんの部屋で待とうかとも考えた。けれども今は一人で考えたかったし、気付けばポロポロと涙が溢れていて、こんな顔を神近くんに見られたくはなかった。
昨晩はあんなに怖かったはずなのに、今はそれどころではなく、恐怖よりもどんよりとした不安が胸を占めていた。
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