216 / 259

「虚像」25

「僕は神近くんを信じてます。たとえ嘘だったとしても……僕だけは神近くんをこれからも、ずっと信じ続けるつもりです」 「どうして?」  お兄さんは口調こそ優しかったけれど、全然笑っていなかった。 「神近くんは口悪いし、先輩に対しても態度も横柄です。それでもーー」  僕はキツく拳を握りしめる。足が少し震えていたけれど、これだけは言ってしまいたかった。 「僕は神近くんが好きです。だから神近くんを信じます」  僕がそう言い切ると、お兄さんは顔を前に向けてしまう。どんな表情をしているのか、こちらからは分からない。 「……そっか。まぁ、せいぜい傷つかないようにね」  そう言ってお兄さんはこちらに振り返ることなく、自転車を漕いで去って行った。  僕は緊張の糸がぷつりと切れたかのように、深いため息を吐き出していく。  好きだと言ってしまった。マズかったかなと、今更ながら不安が押し寄せてくる。でも別に、神近くんが僕を好きと言ったわけじゃないから大丈夫なはずだ。  それよりも神近くんの散々な言われように、僕が耐えきれなかったのが一番だった。  僕はまだ緊張で震える足を動かして、玄関に近づくと扉を開く。神近くんのお母さんが、居間から顔を出すなり「あれ?智代は?」と聞いて来た。

ともだちにシェアしよう!