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「虚像」25
「僕は神近くんを信じてます。たとえ嘘だったとしても……僕だけは神近くんをこれからも、ずっと信じ続けるつもりです」
「どうして?」
お兄さんは口調こそ優しかったけれど、全然笑っていなかった。
「神近くんは口悪いし、先輩に対しても態度も横柄です。それでもーー」
僕はキツく拳を握りしめる。足が少し震えていたけれど、これだけは言ってしまいたかった。
「僕は神近くんが好きです。だから神近くんを信じます」
僕がそう言い切ると、お兄さんは顔を前に向けてしまう。どんな表情をしているのか、こちらからは分からない。
「……そっか。まぁ、せいぜい傷つかないようにね」
そう言ってお兄さんはこちらに振り返ることなく、自転車を漕いで去って行った。
僕は緊張の糸がぷつりと切れたかのように、深いため息を吐き出していく。
好きだと言ってしまった。マズかったかなと、今更ながら不安が押し寄せてくる。でも別に、神近くんが僕を好きと言ったわけじゃないから大丈夫なはずだ。
それよりも神近くんの散々な言われように、僕が耐えきれなかったのが一番だった。
僕はまだ緊張で震える足を動かして、玄関に近づくと扉を開く。神近くんのお母さんが、居間から顔を出すなり「あれ?智代は?」と聞いて来た。
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