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「虚像」32
僕は胸がいっぱいになって、違った意味で涙がポロポロ流れてしまう。
「か、神近くん……」
「何で泣くんですか?」
困ったように顔を顰めている神近くんに、僕は首を横に振る。
「神近くんが……あの女の子とより戻しちゃうんじゃないかって……不安だった。でも僕は男だし、神近くんが普通に恋愛して、少しでもこっちに帰りやすくなるならその方が良いって思って……」
「……何、言ってるんですか」
神近くんが眉間に皺を寄せて、僕の肩を揺さぶる。
「何でより戻すとか言うんですか? 俺は一言も元カノだとは言ってないじゃないですか」
黙り込む僕に、神近くんが息を呑む気配がした。
「まさか兄ですか?」
神近くんはそう言うなり、険しい表情で僕を見つめる。僕は隠し通せないと感じて、お兄さんから聞いた話をポツポツと話していく。
「ごめん。神近くんのこと、好きだって言っちゃった」
それをネタに神近くんの立場が、余計に悪くなってしまったら申し訳なかった。
「そんな事……どうでも良いんです。俺はよりを戻すつもりは全くないですから……」
「本当に……良いの?」
「当たり前じゃないですか。俺は先輩が好きなんですから」
神近くんがそう言うなり僕を抱きしめる。ギュッと痛いぐらいに抱きすくめられ、僕は少しだけ気持ちが落ち着いた。
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