223 / 259

「虚像」32

 僕は胸がいっぱいになって、違った意味で涙がポロポロ流れてしまう。 「か、神近くん……」 「何で泣くんですか?」  困ったように顔を顰めている神近くんに、僕は首を横に振る。 「神近くんが……あの女の子とより戻しちゃうんじゃないかって……不安だった。でも僕は男だし、神近くんが普通に恋愛して、少しでもこっちに帰りやすくなるならその方が良いって思って……」 「……何、言ってるんですか」  神近くんが眉間に皺を寄せて、僕の肩を揺さぶる。 「何でより戻すとか言うんですか? 俺は一言も元カノだとは言ってないじゃないですか」  黙り込む僕に、神近くんが息を呑む気配がした。 「まさか兄ですか?」  神近くんはそう言うなり、険しい表情で僕を見つめる。僕は隠し通せないと感じて、お兄さんから聞いた話をポツポツと話していく。 「ごめん。神近くんのこと、好きだって言っちゃった」  それをネタに神近くんの立場が、余計に悪くなってしまったら申し訳なかった。 「そんな事……どうでも良いんです。俺はよりを戻すつもりは全くないですから……」 「本当に……良いの?」 「当たり前じゃないですか。俺は先輩が好きなんですから」  神近くんがそう言うなり僕を抱きしめる。ギュッと痛いぐらいに抱きすくめられ、僕は少しだけ気持ちが落ち着いた。

ともだちにシェアしよう!