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「虚像」33

「先輩……すみません。俺が兄にちゃんと言っていれば……」  神近くんが辛そうな声に、僕は首を横に振る。 「いいよ……僕は平気だから……」 「さすがに今回の件は許せません。たとえ縁を切る事になったとしても、兄と話をつけてきます」  吐き捨てるように言った神近くんは怒りに震えていた。今までに見たことのない神近くんに、このままでは本当にお兄さんと喧嘩になると、僕は慌てて止めにかかる。 「だ、ダメだよ。お兄さんより先に、両親にちゃんと言った方が良いよ」  お兄さんを敵に回して、神近くんが今以上に家に帰りづらくなってしまうのは避けたかった。 「でも、兄をどうにかしないと解決はしないんです。今までは……他の誰かにどう思われようと俺は構わなかった。でも今は違うんです。先輩にだけは、嫌われたくはない」  奥歯を噛みしめ、悔しげに神近くんが漏らす。 「僕は神近くんが好きだから信じるって、お兄さんに言ってあるから。だから僕のことは気にしないで」 「先輩は……本当に俺を信じているんですか?」 「もちろんだよ」  僕はジッと神近くんを見つめる。神近くんは憮然とした表情で視線を俯け、考え込むように口を噤んだ。きっと、お兄さんに問い詰めるかどうか悩んでいるのだろう。  僕のためにそうしたいけど、僕が駄目だと言っているから葛藤しているのかもしれない。神近くんがそこでま僕の事を考えてくれているのだと思うと、嬉しさと切なさで胸がいっぱいになってしまう。

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