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第1話

 その連絡は、突然だった。  俺は夏季休暇前最後の仕事が終わると、ぎゅうぎゅう詰めの電車に揺られながら一人暮らしのアパートに向かっていた。大学進学で東京に出てきてもう七年ほどになるが、女が付ける化粧品の匂いや、おっさん特有の古びた本のような脂ぎった匂いには慣れることがない。  痴漢冤罪対策で握っているスマートフォンに、無料通信アプリの通知がポップアップで表示された。 “皆さんにお知らせがあります”  それ以降の文字は見ず、通知を消した。どうせお盆にやる同窓会のことだろう。帰省する予定のない俺には関係ない。仲のいい友達が不参加だから、もう何年も出ていないのだ。たいして親しくもなかった人と酒を飲むのは性に合わない。しかし、どんどんと通知が入ってくる。尋常じゃない量だ。 “なんで” “どうして” “たちの悪い冗談やめてよ”  それ以降も、同窓会の日時や会場変更の連絡とは思えない内容の文章が次々と画面に表示されては消えていった。同窓会のことでないとわかった決定打は、 “幸司(こうじ)の名前、夕方のニュースで流れてた。滑落事故で死んだって”  そこまで読んで、アプリを立ち上げた。最初の知らせは、幸司と一番親しかった人からのメッセージだった。幸司が地元の山から滑落して亡くなったこと、通夜と告別式の日時、できるだけ多くの人に参列してほしいということが書かれている。  幸司とは中学の三年間、同じクラスだった。特別親しかったわけじゃないし、同じ高校に進学したもののクラスが離れ、ほとんど関わりがなくなった。明るい幸司の周りにはいつもたくさんの人がいて、引っ込み思案な俺は幸司みたいになりたいと思いながら、遠巻きに眺めているだけだった。就職したあとで幸司が小学校の先生になったと聞き、お似合いだなと数少ない友達と電話で話した記憶がある。  いくらたくさんの人に集まってほしいと言われたからといって、葬式に駆けつけるほどの仲じゃない。だけど俺は気付くと必要な荷物だけ持ち、地元へ向かう新幹線に乗っていた。  トンネルばかりの新幹線の窓に、戸惑った顔の自分が映し出されている。同級生が亡くなるのは初めてだ。当然のごとく、実感など何もない。電波が届かないせいで役立たずなスマートフォンは電源をオフにして鞄にしまった。  最後までトンネルばかりだった新幹線を降りると、すぐに在来線に乗り換える。人がまばらの車内は寒いほどクーラーが効いていた。

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