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第2話

 電車を降り、もうすでに駅員のいなくなった改札の箱に切符を入れる。改札を抜けた先に、 「よっ! 久しぶり」  幸司がのんきに笑って立っていた。 「なんか前よりオシャレになってんね。大学デビューならぬ、社会人デビューってやつ?」  俺は思わず返事をするのも忘れ、幸司の足を確認した。ちゃんと生えている。なんだ、生きてるじゃん。  そうだ、幸司は真っ先に死ぬようなやつじゃない。寿命を迎えるまでたくさんの人に囲まれ、「お爺ちゃん、大往生だったわね」なんて、みんなに泣き笑いで見送られる最後がお似合いだ。最初に死ぬのに相応しい人などいないけど、少なくともそれは幸司じゃない。  騙されたことに気付き、口からぷっと息がこぼれた。 「うわぁ……そういうことか。どうせ上京組の帰省率が悪いから、地元に残った人たちで一芝居打ったんだろ。同窓会の幹事って、いつも幸司だったもんな。わざわざ毎回、個別に確認の連絡までくれるのに、参加しなくてごめん」 「んー……いや、さすがにそんな不謹慎な真似しないって。今頃俺の通夜、国道沿いのセレモニーホールでやってるよ。やたらと悲壮感ただよう同窓会って感じ。霊感のない父ちゃんや母ちゃんはまだしも、坊さんや自称霊感ちゃんにも俺の姿見えてないの。暇だから、誰か見える人いないかな〜って待ち構えてた。まさか(しん)って、霊感あったの?」  近付いてきた幸司は、俺の前で立ち止まった。学生時代より男らしくなっていたが、人懐っこい笑顔は変わらないままだ。日焼けした肌が健康的で、とても死人とは思えない。 「言ってる意味、わかんないんだけど。どう考えても幽霊じゃないだろ。馬鹿にしてんの?」  足は透けていない。白装束でもないし、頭に三角の布だってつけてない。肌はつややかで、赤みさえ差している。それより、こんなににこやかな幽霊なんて聞いたことがない。 「う〜ん……せっかく見えたのに、見えたからこそ信じてもらえないのか。確かに、手も足もそのままだもんな。鏡には映らないけど。ちょっと、トイレ付き合ってよ」  そう言って幸司は駅の外にあるトイレへと向かった。学生の頃だって連れションなんてしたことないから、二人でトイレに行くのは妙な気分だ。  鏡の前に立つと、幸司は自信満々に胸を張った。 「ほら、俺、映ってないだろ。本当に死んでるんだぜ」  薄汚れた鏡には、俺一人が映っている。手のかかったドッキリだと思いたいが、たかだか同窓会の余興のために公共物まで弄らないだろう。 「……本当に、幽霊?」  俺が問うと、幸司は拗ねたように唇を尖らせた。 「何度も言ってるだろ。死んでるんだって。そんなに疑うなら、今から会場に行ってみれば?」 「いや、わざわざ確認しなくたって、この状況じゃ、信じないわけにいかないだろ……」  さっき試しに幸司の体に手を伸ばしたら、何の感触もなかったのだ。空気を触っているのと一緒で、体温さえも感じない。  幸司は安堵したようにため息を吐いた。 「信じてくれてよかった。慎にしか見えないみたいだから、信じてくれなかったらどうしようかと思ってた」  幽霊とは信じ難い無邪気な顔で幸司は笑った。そして、キュッと表情を引き締める。 「お願いがあるんだ。ちょっと、付き合ってくれない?」  幸司は問いかけながらも、有無を言わさぬ目をしていた。 「お願い?」  聞き返した俺に頷き、幸司は無人のターミナルを突っ切っていく。俺は慌てて幸司の背中を追いかけた。

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