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第10話

 幸司の葬式は、幸司が言ったとおり、悲壮感ただよう同窓会のようだった。ふだん同窓会に出そうもない人まで、見慣れない黒い服を着て佇んでいる。  その中に紛れながら、俺は昨日のことは忘れようと、必死に自分に言い聞かせていた。  幸司がさっぱりわからないと言っていたお経は、俺にもさっぱりわからなかった。生きている間にありがたがって聞いていた人には、きっと成仏するための手助けになるのだろう。  幸司の乗った霊柩車を見送り、同級生と別れた。まっすぐ家に帰ると、線香の匂いが染み込んだ礼服は親に任せて、足早に駅に向かう。  早く日常に戻りたかった。日常に戻れば、そのうち何事もなかったかのように忘れられるだろう。相手が死んでから恋をするなんて遅すぎる。全然、報われない。たちの悪い夢だったと思いたいのに、昨日の山登りで汚れたスニーカーが現実なのだとご丁寧に知らせてくれる。 「よっ! 葬式帰りみたいな暗い顔して、どうしたの?」  幸司の声が聞こえた気がして顔をあげた。昨日と同じように、声の主はのんきな顔で立っている。 「まさに葬式帰りだよ、お前の。葬式なんだから暗い顔くらいさせてくれ。……て、成仏! 成仏したんじゃないの?」 「もうちょっと落ち着いて話してくれる? 何言ってるのかわかんない」  自分でも何を言ってるかわからないけど、幸司に言われると悔しいのはなんでだろう。わけわかんないのはお前の存在だよ。幽霊なら幽霊らしく葬式が終わったら静まってくれ。  切符を買って、ホームまで見送りにきてくれた幸司に一応礼を言っておく。幸司は俺の手に触れ、柔らかな声で言った。 「俺、まだ、この世に未練があるみたいだ。受け持ちのクラスの子たちが卒業するまで見守りたいし、思った以上に母ちゃんが参ってるから、ある程度立ち直るまで側にいてあげたい。……きっと、まだしばらくここにいる。年に一度くらいは、会いにきてくれる?」 「……うん、くる。だからしぶとく、この世にしがみついておいて」 「嬉しい、けど、わざわざ俺に会いにきちゃ、駄目だろ……俺、死んでんだぞ」  幸司は自分で言っておいて困ったように笑い、俺の頭をくしゃりとなでた。温もりは伝わってこないけど、心の中はじんわり温かくなる。 「知ってる。さっき、めちゃくちゃ悲惨な同窓会に出席してきたし。香典返しも、ほら、この通り」  不謹慎だと思いながら、目の前に本人がいると悲しみきれず、笑ってしまった。幸司の表情もふっとゆるむ。  上りの電車に乗ると、幸司の立っているホームが遠ざかっていく。元気に手を振る幸司を見て、成仏しそうもないなと吹き出した。

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